君がいた季節


『あっ、お疲れ様ですぅ。三井さんからお電話です。お願いしまぁす』

受付の女の子の能天気な声のあと、

『もしもし時田さん?なんなんスか。携帯にかけてるのにぜんぜん出てくれないんだもん。
まぁ、それはどうでもいいんですけど。
俺、もう一件寄ってから戻るんで、飲み会遅れますねー』

と、これまた能天気な三井の声。


噂をすれば、だな。


三井と話しながら電話の横に置いてあるメモ用紙に『三井』と書いて彼女に見せる。

彼女はそれを見ると、口に手をあててクスクスと笑った。


「ウワサをすれば、ってやつですね」

受話器を置いた俺にそう言った彼女。


そんな些細なやりとりも、彼女となら自然と笑顔になれる。


「今日の飲み会、遅れてくるんだってさ」

ペンの先で『三井』の文字をトントンとつつく。

「そうなんですね。…って、私もっ。
今日中に片付けたい仕事があって。このままだと残業になっちゃう」

そう言うと軽く頭を下げ、慌てて部屋を出て行こうとする。

先ほど目にした、彼女の机一面を覆っていた大量の伝票を思い出した。

< 9 / 109 >

この作品をシェア

pagetop