君がいた季節
『あっ、お疲れ様ですぅ。三井さんからお電話です。お願いしまぁす』
受付の女の子の能天気な声のあと、
『もしもし時田さん?なんなんスか。携帯にかけてるのにぜんぜん出てくれないんだもん。
まぁ、それはどうでもいいんですけど。
俺、もう一件寄ってから戻るんで、飲み会遅れますねー』
と、これまた能天気な三井の声。
噂をすれば、だな。
三井と話しながら電話の横に置いてあるメモ用紙に『三井』と書いて彼女に見せる。
彼女はそれを見ると、口に手をあててクスクスと笑った。
「ウワサをすれば、ってやつですね」
受話器を置いた俺にそう言った彼女。
そんな些細なやりとりも、彼女となら自然と笑顔になれる。
「今日の飲み会、遅れてくるんだってさ」
ペンの先で『三井』の文字をトントンとつつく。
「そうなんですね。…って、私もっ。
今日中に片付けたい仕事があって。このままだと残業になっちゃう」
そう言うと軽く頭を下げ、慌てて部屋を出て行こうとする。
先ほど目にした、彼女の机一面を覆っていた大量の伝票を思い出した。