無音の音
(いた…)

茜がいた。

この前に会った時と全く同じ場所、同じ向きで、同じ胸像をデッサンしていた。

そして、振り向き、私をみすえ、にっこり微笑む。

その時間が何分にも感じられた。

私が何も行動を起こせないでいると、茜はゆっくり口を開いた。

「今日は暑いですか?」

前と全く同じ音を発した。

「うん、今日はとても暑いよ。」

慌てて発した私の声は、なぜか茜と同じく心地よく響いた。
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