無音の音
「ただいま。」

私は静かに家のドアを開けた。

「おかえり。」

母が居間から駆け出してくる。

「今日も遅かったのね。ご飯いる?」

「うん。」

じゃあ着替えてらっしゃい、という声を背に、私は二階の自分の部屋へむかった。

隣は姉の部屋だ。

今はドアが開け放たれていて、部屋の主は不在だ。恐らく夜勤だろう。

自分の部屋はひっそりとしていた。鞄をベッドに置いて、部屋着を手に取る。

その中で、ずっと今日のことを思い返していた。

(もうすぐ完成なのかな。)

茜の描いていた絵は、なんとなくもうすぐ完成しそうな気がした。

絵は詳しくないのでよくわからないが、茜の持っているポストカードと、茜の描いている絵は、もうそっくりになっていた。

(そうだ。新しいポストカードをプレゼントしようかな。)

私は自分の思い付きに我ながら関心した。

そして、茜と一緒に買いに行こうと誘ってみようかと、新たな考えがわいてきて、思わず顔がにやつく。

その顔が部屋の姿見に写っているのに気づいて、少し恥ずかしくなった。

私でもこんな顔をするんだ、という妙な発見もあった。

「チハル、ご飯冷めるよ~。」

階下から母の声が響き、私は慌てて着替えをし、顔を引き締める努力をした。

とりあえず木曜日に誘ってみよう。断られるかもしれないが、誘ってみることは無駄にはならない気がした。
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