泡沫の夜
Wednesday
「おはよう」
「……おはようございます」
出勤後すぐに自分のデスクで資料のテェックをしていた私は、コーヒーの香りと共に現れた彼を見上げた。
「はい、山瀬さんの」
コト、とデスクの隅に置かれたのはコーヒーの入ったカップ。
「あ、あの……」
限られた量の部長のコーヒーだ。
毎日飲むのは申し訳なくて、そろそろ遠慮しようと思っていたのに。
月曜日、敷島さんと一緒にコーヒーを飲んだ時間は確かに穏やかで、仕事への意欲が湧いた。
でも、そんな贅沢を毎日求めていたわけでもなくて。
翌日、彼が私のデスクにこうしてコーヒーを持ってきた時は驚いたけれど素直に受け取った。
けれど、今日もこうして持ってきてくれるなんて……。
どうしよう。
「山瀬さんは毎朝早く来て机周りを整えてくれるんだから、遠慮しないでいいと思うよ」
でも。
そんなつもりで早くに来ていたわけではないのだし。