泡沫の夜



「なんて。本当は僕が山瀬さんと一緒に飲みたいだけなんだよ」

戸惑う私の前で、敷島さんは小さく笑いながら言葉を続ける。

「……というか、部長のコーヒーじゃなくて、僕がご馳走するコーヒーでも一緒に飲んでくれる?」

社交辞令にしてはなんだかおかしいと思った。

まるで私とコーヒーを飲む理由を探しているみたいだ。

「ま、毎日コーヒーを飲む習慣はないので……え、と、」

社交辞令にしても、そうでないとしても、彼にどう返すのが正解なのか分からなくてしどろもどろになってしまう。

だって、こういう遣り取りは慣れていない。

「残念、振られた」

「えっ?」

振られた、と言っただろうか?

単に軽く返しただけ?

あぁ、もう分からない。

普段の、こんな些細な場面でも上手くかわしたいのに……。

そう思いつつも、だからと言って金曜日の夜変装した自分が男性相手に上手く遇らう事が出来ているかといえばそんなわけでもない。

そもそもあの日だって……。



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