泡沫の夜
「おはようございます」
◯タバに寄ったこともあって、いつもより少し遅くなった私は、すでに来ていた敷島さんに近付いた。
「おはよう、あ、それ◯タバのだ」
目敏く私が抱えた袋に目を向けた彼に、袋の中からカフェラテを1つ取り出して渡した。
「ありがとう。遠慮なくいただく」
黒縁眼鏡の奥の穏やかな目元が弧を描く。
ホッとした。
彼が纏うこの穏やかな空気は、私をいつも安心させてくれる。
理央くんといるときの私は、何処もかしこも偽りで、気が抜けなくて彼と会った後はほんの少し気怠さが覆う。
だけどその気怠さを代償としてでも、彼から与えられる熱情は、まるで禁忌の薬物のように私を捉えて離さない。
ううん。
彼はいつだって私を離すことができる。
離れられないのは、私だけだ。
でも、いい加減終わりにしなきゃ。
今日は金曜日。
彼との約束の日。
私は今日、理央くんにお別れを言うことに決めていた。