泡沫の夜
「山瀬さん達社食で食べてたんだ」
頭上から降ってきた声に驚いて見上げた先に、敷島さんがいた。
「敷島さんはお昼終わられたんですか?」
「いつも行きつけの食堂でね。品数は多いし安いしで、独身男性結構多いよ」
「どこのお店なんですか?」
独身男性と聞いて、彼女達の目の色が変わったことは見なかったことにしよう。
「敷島さんって、山瀬さんの事気に入ってますよね」
他愛のない会話の後、不意に八原さんがサラリと落とした言葉に私は息をのんだ。
何を言い出すの?そんな答えに困る事言わないでほしい。
慌てて「何言ってるんですかっ、」八原さんを軽く責めた。
「えー、」と残念そうな声音に被さるように、クスッと笑う声が聞こえた。
今の、敷島さん?
振り仰いだ先に、敷島さんの優しい眼差しがあった。
真っ直ぐに向けられているそれは、間違いなく私に向けられている。
思わず逸らしてしまいたくなるその真摯な眼差しに、胸が小さく鳴った。
「……そうだね。結構前から気に入ってる」
逸らしかけた視線は、その言葉に縫い取られるようにして固まった。
きゃあ、と2人の高い声がどこか遠くから聞こえるみたいだ。
「こ、こんな場所でそんなこと言われたら、揶揄われてるみたいに感じます」
可愛くないと自分でも分かっている。
隣でブーイングかます2人の声も無視して、敷島さんを軽く睨んだ。