泡沫の夜
「⁉︎」
首元に何か触れた気がした。
けれど振り向けず気のせいだと思うことにした直後、後ろから滑るように人の指が首筋を撫でた。
え、なに?
私の真後ろにいるのは理央くんの筈で……ということは、この指の感覚は理央くんのもの?
首筋を滑って耳孔に小指だと思われるそれが入り込んできた。
ビクッと肩が震えた。身体に力を入れていないと声まで漏れそうになる。
「山瀬さん、どうかした?」
敷島さんに問われて、「なんでもないです」と答えた声は震えてしまう。
だって、言えるわけない。
彼らからは、なにも見えていないのかもしれない。
でも、気のせいじゃないよね?
どうし、て?
じわりと目の奥が熱くなって、涙腺が潤んだ。
眼球を潤したそれが零れ落ちそうになる一歩手前で、彼の指だと思われたそれは離れた。
「ゴミがついていましたよ」
後ろから伸びてきた掌の中には、なにも見えなかった。
それでもただ俯いて「ありがとうございます」とだけ返した。
今のは、わざとじゃないよ、ね?