泡沫の夜
終わりにしよう。
このまま、知らないふりをして終わりにしてしまおう。
彼だって嘘をついて会っていた私を軽蔑しているに違いない。
二度と会いたくないと思っているはずだもの。
あの店に行かなければいいんだ。
今日は金曜日。
今日を区切りに理央くんとのことは忘れよう。
どうせ終わりにするつもりだった。
できれば最後にもう一度会いたかったけれど……やっぱりダメだ。
彼だってあの店にはもう二度と来ない。
いい夢を見せてもらったと、そう思って潔く諦めよう。
定時に仕事を終えて少し時間を潰してから会社を出た。
金曜日の夜はいつもそうしていた。同僚達に見つかることは避けたかったし、心の準備が必要だったから。
嘘でメイクするにはいつも時間が必要だった。
それももう終わり。
これからは、定時に上がって真っ直ぐに家に帰る。
平日となんら変わりのない生活を送るのだ。
徐々に沈んでいく気持ちが減り込むほどにまで落ちきった時、路地裏に入る道に着いた。
いつもならこの道を折れて、あのバーの少し先にあるビルのトイレで変装をしてからバーに向かう。
でも今後、金曜日もこの道へ進むことはない。
後ろ髪引かれる思いでその路地裏の道を後にして先へ進んだ。
恵理菜に電話しようかな。
金曜日の夜に1人で過ごすなんて久しぶりで寂しすぎるもの。
バッグからスマホを取り出して恵理菜に◯INEを送る。
すぐに返ってきた恵理菜からのメッセージに溜息が落ちた。
こんな日に限って恵理菜と都合が合わないなんて。