泡沫の夜
「……っ、」
もう何度高みへと導かれたのか分からなくなる程、意識はドロドロに溶かされている。
それでも思わずあげそうになった声を、咄嗟のところで唇を噛むことで堪えた。
はしたなく、声なんてあげたくなかった。
今、この人の前にいる私は、後腐れない大人の恋愛を楽しむクールな女でなくてはならないのだから。
「カナ……」
彼の甘い声が鼓膜を震わせて、私であって私ではない名前を囁けば、何故か目尻に浮かんだ涙が頬を伝った。
もう何度も抱き合っている彼の指先や唇は、私の弱いところを正確に愛撫して、簡単に熱を灯していく。
意識を保とうとする私の必死の攻防は、彼が果てる瞬間の吐息が聞こえるまで続くのだ。
「……はぁ……っ、」
落ちた吐息を受け止めるように目を開けて、ゆっくりと私の隣に倒れてくる彼を見上げるこの瞬間が一番好きだ。
上気した頬が、気だるそうな表情が、私を見下ろすその甘い視線が、今日も無事に彼を満足させることができたのだと安堵できるから。