泡沫の夜
「入って」
促されるままホテルの部屋へ足を踏み入れた。
少し広めの室内の窓から見える景色は、すっかり日も暮れて空には星が見え始めている。
スーツの上着を脱いで椅子の背にかけた理央くんは、冷蔵庫からビールを2つ取り出して、1つを私にくれた。
それから椅子に座って気怠げな様子でネクタイを緩め、缶の蓋を開けて仰るように飲んだ。
「どうして帰ろうとした?」
ビールを持って立ち尽くす私を見上げた彼の目はなんだか少し寂しげに見えた。
「……もう、会わない方がいいと思って」
嘘をついていたことがバレて、貴方と会っていたのがこんな地味でつまらない女だったと知られて……どんな顔で会いに行けるというの。
「他に男ができたから、俺と遊ぶのはもう終わりにしたいってこと、か」
独り言のように落とされた声音。
彼の言葉に戸惑いを覚えた。
怒っているんじゃないの?嘘をついて騙していた私を軽蔑したんじゃ……。
「敷島さんは良い人だよな。誠実で、仕事ができて……カナ、山瀬さんに似合ってる」
「り……」
名前は呼べない。