泡沫の夜



腰に回された腕が強く巻きついてきて、身体が宙に浮いた。

「……!」

気付けば、ベッドに投げ出されていて理央くんが覆いかぶさるようにしてのしかかって来ていた。

彼の体重を受け止めて、押し付けられた胸の苦しさに喘ぐ。

「……渡すかよ」

耳元で囁かれた声は低く重く、ズシンと鳩尾に響いた。

「り、篠原さ……」

「理央、だろ。ベッドの上ではそう呼んでた」

理央、なんてもう呼べる訳ないじゃない。

私は、カナじゃない。

彼が愛してくれた金曜日の夜だけ会えるカナは私であって私じゃないんだもの。

本当の私は地味でつまらない、山瀬 羽奏だ。

「理央って呼べよ。いつもみたいに俺の名前を呼べよ」

上半身を浮かして私を見下ろす理央くんの目が、懇願するように瞬く。

「……呼べない」

呼ぶ資格はないよ。

「もう止めよう?私は……」

理央くんとこうしていられない。

嘘で着飾るのは疲れちゃった。






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