泡沫の夜



視界が滲んで涙が頬を伝ってシーツを濡らしていく。

堰を切ったように溢れてくる涙は、自分の意思では止められそうにない。

好きな人に、他の人のことを言われるのは嫌だ。

嫌いなら嫌いでいいから、他の人を押し付けるような真似だけはして欲しくなかった。

好きだから、片想いする自由位奪って欲しくなかった。

のしかかられて、身動きのできない状態で、涙すら拭けなくて。

そんな私の涙を、理央くんが指の腹で拭い取った。

何度も何度も。

そして、私の目をじっと見つめて呟くように言った。


「好きだって……何度も伝えたろ?」

「……え?」

「好きだって、初めて抱いたあの夜から、何度も言ったよな、俺」

真面目な顔でそう繰り返す理央くんの表情に思考が真っ白になった。

好きだと伝えてくれていた?

た、確かにベッドの上で何度か聞いたそんな言葉を。

だけどそれは情事の最中、行為を進める上での潤滑油の役割だとしか思っていなかった。

だって、あんなにたくさん聞かされれば、この人はセックスをする時誰にでもそう言っているんだと思ったくらいだ。

そんな、まさか、と思う。





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