泡沫の夜
恥ずかしくて、情けなくて、理央くんに見つめられていることが辛くなってきた。
「消えられたら、困る」
「恥ずかしい……自分が情け無いよ。理央くんだって呆れてるんでしょう?」
顔を逸らしたまま呟いた。
「……可愛いと思ってたよ。なんで、他人を演じているのかは分からなかったけれど、普段のあんたも、ベッドの中のあんたも、いつだって真摯な羽奏を見ているのは可愛いかった」
理央くんが、可愛いを連発するたび頬の熱が上昇していく。
「気付いていたなら、言ってくれればいいのに……意地悪だわ」
これじゃあ八つ当たりだと思うのに、言わずにはいられなかった。
「……意地悪なのはどっちだよ。会社では思い切り避けてくれたくせに。俺との関係を周りに知られたくないのかって、俺とのことは遊びなのかって、不安にもなる」
不安?理央くんが不安になってたっていうの?
「どうしてそんな……私なんて会社では目立たない、つまらない女なのに」
逸らしていた顔を戻して、ゆっくりと彼を見上げた。
「目立たない?よく言うよ。羽奏は気付いてないの?最近羽奏のことを『可愛い』って話してるやつがたくさんいるのに。他部でそんな話が出ていたから不安になって経理部に覗けば、敷島さんにちょっかい出されてるし」
「敷島さんは、違うよ……っていうか、理央くんの勘違いだよ。私はそんな、モテたりしないし……」
自分が可愛いと男性から思われるタイプではないことは、自分自身がよく分かってる。
はぁっ、
わざと大きい位に吐かれた溜息。
「全然分かってないし。無防備だから、ほんとムカつくよ。今までだって可愛いと思ってた。ずっと好きだった俺の欲目かもしれないけど。でも最近綺麗になったって言われてるのは……俺とのことがあってからだ。羽奏、最近色っぽくなった。それって俺のせいだろ?俺が羽奏を他の男の目にとまる女にしたってことだろ?」
理央くんはなにを言ってるんだろう。
……というか、私が気付いていないだけ?自分の変化に。
そんなの分かるわけない。
私はなにも変わっていないもの。
「俺が羽奏を綺麗にしたんだ。今更他の奴に横からかっ攫われてたまるかよ」