泡沫の夜



恥ずかしくて、情けなくて、理央くんに見つめられていることが辛くなってきた。

「消えられたら、困る」

「恥ずかしい……自分が情け無いよ。理央くんだって呆れてるんでしょう?」

顔を逸らしたまま呟いた。

「……可愛いと思ってたよ。なんで、他人を演じているのかは分からなかったけれど、普段のあんたも、ベッドの中のあんたも、いつだって真摯な羽奏を見ているのは可愛いかった」

理央くんが、可愛いを連発するたび頬の熱が上昇していく。

「気付いていたなら、言ってくれればいいのに……意地悪だわ」

これじゃあ八つ当たりだと思うのに、言わずにはいられなかった。

「……意地悪なのはどっちだよ。会社では思い切り避けてくれたくせに。俺との関係を周りに知られたくないのかって、俺とのことは遊びなのかって、不安にもなる」

不安?理央くんが不安になってたっていうの?

「どうしてそんな……私なんて会社では目立たない、つまらない女なのに」

逸らしていた顔を戻して、ゆっくりと彼を見上げた。

「目立たない?よく言うよ。羽奏は気付いてないの?最近羽奏のことを『可愛い』って話してるやつがたくさんいるのに。他部でそんな話が出ていたから不安になって経理部に覗けば、敷島さんにちょっかい出されてるし」

「敷島さんは、違うよ……っていうか、理央くんの勘違いだよ。私はそんな、モテたりしないし……」

自分が可愛いと男性から思われるタイプではないことは、自分自身がよく分かってる。

はぁっ、

わざと大きい位に吐かれた溜息。

「全然分かってないし。無防備だから、ほんとムカつくよ。今までだって可愛いと思ってた。ずっと好きだった俺の欲目かもしれないけど。でも最近綺麗になったって言われてるのは……俺とのことがあってからだ。羽奏、最近色っぽくなった。それって俺のせいだろ?俺が羽奏を他の男の目にとまる女にしたってことだろ?」

理央くんはなにを言ってるんだろう。

……というか、私が気付いていないだけ?自分の変化に。

そんなの分かるわけない。

私はなにも変わっていないもの。

「俺が羽奏を綺麗にしたんだ。今更他の奴に横からかっ攫われてたまるかよ」







< 37 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop