泡沫の夜



吐き捨てるように言ったその唇で、理央くんは私のそれに触れた。

啄ばむような小さなキスを何度も唇に落としていく。

「……羽奏は俺のものだ。敷島さんにも、誰にも渡さない」

「……理央くん」

「本当に俺から離れたいの?俺は本気だ。本当は金曜日の夜だけじゃなくて毎日だって会いたい。会社の奴らにだって、羽奏は俺のものだって言いたい。……なぁ、俺を選べよ」

「り、」

名前を呼びかけた唇は、優しく喰まれる。

滑るように入ってきた舌が、口内を味わうように動き回り、舌に絡みついてくる。

身動ぐ私の頭を包み込むように固定して、深く、もっと、と彼は際限なく求めてきた。

「……っ、」

息苦しさに頭を振れば、理央くんの唇は離れてくれたけれどそれも僅かなもので、再び深いキスをせがんできた。

どれくらいの間そんなキスをしていたのか、ようやく理央くんの唇から解放された時は、意識は既にドロドロに溶かされていて、息が上がってしまっていた。

「……返事、もらえないのか?」

返事?

一瞬なんのことか分からなかった。

「羽奏は……誰といたいの?」

そう問われてさっきの理央くんの呟きを思い出す。





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