泡沫の夜


キスしているところを見られてしまった!と慌てているのは私だけだ。

理央くんも敷島さんも、二人とも全く気にしていないように見える。

恥ずかしさで俯く私の頭上で、二人がどんな顔をしているかなんて知るのも怖いけど。

「付き合うことになったんだね、」

「……あ、」

頭上から優しく降って来た声音に、ピクリと肩が揺れた。

ゆっくり顔を上げて、理央くんと敷島さんを交互に見た。

内緒にしたいと言ったのは私だからか、理央くんは黙ったままだ。

答えに戸惑っていると、理央くんの手が指に絡みついてきてキュッと握り締められた。

私が答えに戸惑うことで、彼を不安にさせてしまっているのだ。

それに、敷島さんに嘘をつくのも……ダメな気がした。

理央くんの手を握り返しながら、敷島さんに顔を向けて頷いてみせた。

「そっか、……残念」

残念、そう言いながら見つめてくる視線に熱が篭っている気がして、慌てて視線を逸らした。

「そういうわけなので、俺のにちょっかい出さないでくださいね」

いつの間にか身体ごと絡め取られて、理央くんの体温を強く感じてドキドキする。

もう!ここは会社なのに。

「大丈夫だよ。彼女から近づいてこない限り、俺から手を出すことはしない」

キッパリと言われてホッとしたと同時に、妙な言葉の選択に訝しくも思う。

私からって、理央くんとのことを宣言した今、敷島さんに私から近づく事なんてあるわけないのに。



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