泡沫の夜
「……帰るわ」
胸を押して、彼から離れた。
「カナ、」
「……お休みなさい」
彼の目を見ないようにして支度を済ませて、最後にそれだけ言って部屋を出た。
もう、追ってくる声はなかった。
彼の事だから、慰めてくれる相手は他にもいるだろう。
私がいなくなった後も、寂しければ他の子を呼べばいい。
私には彼を縛ることはできないし、したいとも……思っていない。
スマホを取り出して時間を見る。
12時を少し過ぎていた。
金曜日の夜は終わり。
大人の恋愛ごっこは、引き際が肝心なのだ。