泡沫の夜
当日、少し寄り道するところがあると理央くんに言われて、急遽待ち合わせは駅前となった。
半分仕事で半分デート。
ここは素直に浮かれたくて、メイクには念が入る。
偽っていた頃のような派手なメイクはしなくなった。
「羽奏は、羽奏自身が好きだと思えるメイクをすればいい」と理央くんが言ってくれるから、ついつい甘えてナチュラルに毛が生えた程度のもの。
それでも昔使っていたカラーより、少し柔らかめの明るい色を選ぶようにはなった。
今日は家を出た時から風が強くてとても寒かった。
寒の戻りというやつだ。桜の木の蕾はまだ固く、リサーチとは言っても桜の開花リサーチはできそうもない。
そんなまだまだ寒い時期でも、デートだからオシャレはしたい。春カラーにしつつも襟元にはファーをつけたコートを着込んだ。
駅前には私の他にも待ち合わせをしている人たちが多い。
寒い風が吹く中、乱れた髪を気にしながらも理央くんを待つ時間は、ほんの少し心があったかくて、気持ちも弾む。
「もしもーし、そこのおばさん」
今か今かと待ちわびる私は、浮かれていたということもあって、声をかけてくる人が、それも女の子の声で、しかもおばさんなんて呼ぶから、まさか自分に対してだなんて思いもしなかったんだけど……。