泡沫の夜
「ちょっと、そこのおばさん。あんたを呼んでるのよ?」
すぐ目の前に立たれて指を指されれば、それが嫌でも私に言っているのだと分かる。
「……私?」
「そ、あんた」
声も、そしてその顔も可愛らしいのにその口から出てくる言葉はなんとも挑戦的で可愛げがない。
普段他人に対してそれほど嫌悪感を抱く人間ではないと、自分では思っていたけれど……。
「あの、初対面だよね?おばさんとかあんたとか、それって失礼じゃないかな」
よくよく見れば、まだ学生のように見える。大学生くらいだろうか?
あんたとかおばさん呼びをしてくる不躾なな学生の知り合いはいなかったはずだけど。
「初対面じゃないわよ。私はあんたのこと知ってるもの。地味でメイクだって下手で、女としての魅力にかけてるしさ……」
初対面でないとしても、あんまりな言い方だ。
少なくとも私は彼女に見覚えは……?
あれ?
「もしかして……?」
不意に記憶の奥の引き出しが開いた。
「羽奏、おまたせ!……と、華(はな)⁉︎お前なんでこんなところに?」
待ち合わせの時間ほぼピッタリにやってきた理央くんが、彼女をみて驚きの声を上げた。