泡沫の夜


「また高価そうなヤツを。人の財布をあてにし過ぎ……」

溜息まじりに落とされた声は、確かに理央くんのものだった。

彼女を振り返った彼の視界に偶然私も映ったのだろうか?

彼と、目が合った気がして慌てて顔を背けた。

けれどすぐに、まさかね……と思い直す。

彼が、私に気付く筈ない。

「羽奏?どうかした?」

店の真ん中で固まった様に動かない、どこかトリップしていた私を、恵理菜の声が現実へと引き戻してくれた。

「え、あ、なんでもない。恵理菜は、何か買うの?」

「ううん、いまいち。私はもういいや。羽奏はどうする?」

「私もいいかな」

「じゃあ、行こうか……?」

一瞬、恵理菜の眉間に皺が寄った。けれどそれはほんの一瞬のことで、彼女に急かされるまま店を出た。

彼女、可愛かったな。

あの後、寂しさに耐えられず呼んだ彼女なの?

「羽奏?こら、眉間のシワ」

恵理菜に指摘されて、自分が不機嫌な顔を晒していたことに気づく。

「えっ、そう?……てか、恵理菜だってさっき嫌そうな顔してたけど?」

「や、だってね。さっきイケメンに甘える女いたじゃん?あの子がやたらチラチラこっちの方見てたからさ。やな感じだったなと」

「なんだろね」

「ま、いいや。ね、お腹空いたしちょっと早めのランチ行こうよ」

恵理菜の誘いに頷いて歩き始めた。




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