ヘタレとドSとツンデレと
「うおあああっ!」
叫び声を上げたシノミヤは今ある現実を拒絶する様に後退る。目を閉じてうっとりとその瞬間を待ち受けていたリュカは何の感触もない状態に薄目を開けて気づく。
「あれ?シノミん……え、何で!?せ、せっかくイチャイチャタイムだったのに!」
頭を抱えて状況を整理するシノミヤと困惑と心底残念さを口にするリュカ。
だが、先程までの二人を見ていたナツキだけは完全に引いた視線を向けていた。
「へ、へー……。シノミヤ、やっぱりそうなんだ……いや、うん、恋愛の形は色々だし……俺は別に止めないよ」
「ナツ、お前さっきの事を今すぐ忘れるのと、今から前頭葉フッ飛ばされるのどっちが良いんだ?選ばせてやるよ」
引きつった笑みで得意の銃をナツキの額へと向けているシノミヤの口調は脅迫めいた雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「俺に銃口向けないでよ!」
巻き込まれた上撃たれるなんて真っ平だ。ナツキは両手を上げながらも猛抗議する。しかし、だったらさっきのあれは何だったのだ?確かに明らかに普段のシノミヤでは無かった。シノミヤ自身も自分の身体の異常を理解していた様で、リュカに詰め寄っている。
「おい、今のは何だ!?お前……また何か盛っただろ!」
「盛ったなんて失礼だなあ。ボクが開発したチョコレート。一粒食べると目の前の子の事が大好きになっちゃう代物……試作品だけど、ボクとしては、もう少し長い時間持つと思ってたのに、がっかりだよ」
一粒手に取りながら改めてチョコレートを懲りずにシノミヤの口許に押し付けようとしている。
「でも、これだけ量があれば恋人同士の雰囲気を味わえるんだもん。ほら、あーんして?シノミん」
「誰が恋人だ!そんな訳の分からねえもん懲りずに作りやがって、二度と食うか!」
箱を手にしていたシノミヤは再び抵抗を試みてる様だった。だが、今のリュカの話は間違いなく本物の惚れ薬ならぬ、惚れチョコ。しかも、効き目が短時間なのであれば少しくらい……。ナツキの好奇心は膨れ上がっていく。