ヘタレとドSとツンデレと
皮を包丁で剥くのは難しい。
ぎこちない手つきだし、果実の辺りまで切ってしまっているのが勿体ないけれど、何とかリンゴなどのフルーツの皮剥きが終わった。
一つ一つの作業をこなしながらも、気がつけば使った器具や材料の余り、粉ものなどがテーブルに散乱したりしてしまっている。
「汚しちゃったなあ。とりあえず、片付けないと」
もっと料理が手慣れていれば、作る合間に片付けや洗い物も出来るのだろうけれど、作るばかりに集中してしまう今はやっぱり手際が悪いのだろう。
洗い物を少しずつ済ませていると、オーブンからは甘い香りが立ち込めてくる。
中を覗くときつね色に色づいたスポンジがケーキ型から少し丸みを帯びて膨らんでいた。
「良い感じに出来そうで良かった!」
本来一番に送りたい彼女の事を思い浮かべる。食べることが大好きな子だから、きっと喜んでくれるだろう。
焼き上がる音と共にケーキ型を取り出してみる。本の通りにやったからなのか、初めてにしては上出来なスポンジが出来ていた。