その音が消える前に、君へ。
アサガオの香りに乗せて
朝焼けの中を爽やかに吹き抜ける風は、何もないでも確かに輝きを生み出すこの街で小さく音を奏でていく。
サラサラと透き通るように流れていくその風は、どこか心地よくて安心する。
その身を縮こまらせたいくつもの朝顔の身体を揺さぶり、私の横を通り抜けていっては空高くへと舞い上がるように消えていく。
いつもよりもうんと早く起きた私は朝の散歩をしている途中、足の動きを止め聞こえてくるその音に耳を傾けた。
大きく響く私の音と、私だけが聞くことの出来る世界の音。
そして君が教えてくれたあの音も、私だけが聞くことだけができる世界の音も、全部が私の中で生きている。
透き通った薄明色の空の下、そっと目を閉じた。
今日もどこかで――その音は確かに響いている。
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