その音が消える前に、君へ。
信の答えに答える代わりに、紅茶を飲み干して鞄を手に取り立ち上がる。
特に話すこともないのだから、長居は必要ない。
帰って出された課題と予習をして、読みかけのあの本を読む。
信に私の自由な時間を奪われるのだけは御免だ。
「送るか?」
「先生に見られたら私も怒られるんだから、断るに決まってるでしょ」
「相変わらず真面目な奴ぅ……」
信に言われた言葉を無視して、私は化学室から立ち去ろうと扉を開けた。
すると突如聞こえたあの音に、私の足の動きが鈍る。
胸を締め付けるような、あの音が。
「紗雪」
信が急に呼び止め、仕方なくゆっくりと信の方へと体を向けた。