その音が消える前に、君へ。
中々話し出さない先生に、様子がおかしいと誰もが思う。
一体どうしたのかと少しざわめく教室で、先生はゆっくりと口を開いた。
「急な話だが、榊が転校することとなった」
ザワっと一気にざわめきが増す中、私は先生のその声をしっかりと聞こうと向き直っていた。
握りしめていたカバンの持ち手に、ぎゅう……と力を入れる。
「何も挨拶がなく申し訳ない、との榊からの伝言だ。家庭の事情で急遽……だそうだ。どこかで見かけたら声を掛けてやってくれ」
……違う、きっとそんな軽い思いではない。
君は、何かを隠している。
それを私は知っている、だからーー確かめなきゃいけない。
「安心しろ、裏切りを犯したとかそんなんじゃないからな。ただ俺も急すぎてどうやって話していいか分からなくてな……」
苦笑を浮かべる先生は、本当に何も知らないんだと突きつけてくる。
この人は宛にならない、そう判断して下唇を噛み締めた。
動揺を隠しきれないクラスメイトが放つ空気を感じながら、先生は何か話している。