その音が消える前に、君へ。


もう先生の話は聞こえてきてはいなかった。

先生が教室を去っていくその姿を視界の隅に入れながら、机を見つめた。

帰る支度の途中のカバンが口を開けて、荷物を入れてくれと訴えてきていた。

しばらくの間動けなかったが、どこかで誰かが動き次から次と行動を開始していく。


「紗雪……」


誰かに声をかけられている、そう理解するのに少し時間が掛かった。

はっと我に帰り顔を上げれば、心配そうな表情を浮かべた陽菜乃に、高木さんに村上さん。

私の背中をずっと押そうとしてきた三人の顔には、なんて声を掛けていいのか分からない、とでも言いたそうな表情だった。

……違う、まだ諦めちゃダメなんだよ。

そう言ったつもりだったけど、私は支度途中のカバンを勢い良く担ぐ。


「ちょ?!紗雪?!」

「大丈夫……だから待ってて」


教室を出る前にそう吐き出して、勢い良く走り出す。

人の波を掻き分けて、自分の中で一番早い速度で一気に階段を降りる。




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