その音が消える前に、君へ。


辺りを見渡し、化学室へと続く扉を開けてそっちに私を招く。

真っ黒な化学室の机に腰を預け、腕組をしながらいつもとは違う表情で私を見つめた。

何か言いかけるけれど、その前に白衣のポケットからスマホを取り出し何か打ち込む。

そしてそのまま私に差し出してスマホを受け取ると、誰かに発信していた。


「そいつから色々聞け」


そう言われてスマホを耳に押し当てる。

何コール目か分からないけど、聞きなれない発信音に心臓がバクバクしていく。

しばらくの間その発信音を聞いていると、早く榊くんに会いたい気持ちばかりが募る。

その感情を抑えようとしたその時、プツッと発信音が消えそれと共に知らない女性の声が聞こえてきた。



『信?一体ーー』

「あ、あの、信のスマホを借りて電話させて貰っています。管原 紗雪と言います」


名を名乗ると、困惑した女性の声が耳に届いてくる。

しかし、すぐ様理解したようになるほどね……とため息を零した。


『あなた、信の教え子ね』

「はい」

『初めまして、あなたの事は信から聞いていたわ』


この女性と信がどのような繋がりかは分からないが、どうやら私の事を知っているらしい。



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