その音が消える前に、君へ。
しんと静まり返った化学室で、信にスマホを返す。
無言で受け取った信は、画面をタップし何かしている。
その姿を見つめていると、信の目が私をしっかりと捉えて逃がさない。
「お前は、どうしたいんだ」
そう言ってスマホをポケットに仕舞い、再び腕組みをして私を見下ろすように見てくる。
どうしたいか、その質問は信にとっては今ではなく今後の話だろう。
自分の将来をどうしたいか、そんなの今考えても怖くなるだけだから考えないようにしていた。
過去に起こった出来事のようになりたくはない、でも。
確かに考えたら怖くて足が竦んで動けない、ここまで勢い良く走ってきたあの動きが出来なくなる。
「逃げるのか」
「逃げたいわけじゃない!でも、私は……」
「なら一つここで俺が知ってる話をーーお前に聞かせてやる」
信の熱の篭った声に何故か背筋がしゃんと伸びた。
遠い記憶を辿るように、信がゆっくりと話し出す。
「今から10年前……この学校に通っていたマイディアントが力の暴走を恐れ、人と関わるのを避けてきた。クラスにも馴染めず、荒れ果て暴走族の一味だと噂されていた時もあったらしい。だが、そいつの目の前で力を憎み、自ら命を絶とうとしている一人の少女がいた」
自殺しようとする程、自分の力を憎む人がここにはいた。
その事実に、自分の力の存在が小さく思えてきた。