その音が消える前に、君へ。
「そんな状態を見過ごすわけにはいかないと、迷わずそのマイディアントは裏切りを犯した。裏切りを犯してでもその人を助けたかった。後悔はしたくなかった故に」
「そのマイディアントはどうなったの?」
この社会で生きていくためには、絶対に裏切りは犯してはならない。
それが、私達の窮屈な世界なのだから。
そう思っていた、信の言葉を聞くまでは。
「もちろん、学校は退学。でもその助けた少女と付き合うことになったり、ある場所で手を差し伸べられて働きながら幸せに暮らしてる……らしい。裏切りを犯したからと言って、全てが不幸になるわけじゃないんだ」
「社会から外れて生きているわけではないの……?」
「ああ。裏切りを犯したからといって後悔しているわけでもない。裏切ったから後悔しなかったんだ。むしろ幸せを勝ち取るために裏切りを犯した」
そんなこの学校に入学すると同時に今までずっと、裏切りは絶対に犯してはいけないと、耳にタコができるくらい聞かされて来たと言うのに。
幸せになるために裏切りを犯した……?
助けるための力がそのマイディアントにはあって、その力を迷わず使って……そんなヒーローみたいな出来事なんて政府が行うことだけと思っていたのに。
「紗雪、自分の今の選択に後悔しないか」
「……」
「なんの為に会いに行きたいんだ」
「それは……」
ぎゅっと自分の胸元を握りしめ、心臓の高鳴りを抑える。