その音が消える前に、君へ。


そうだ、もう後悔はしない。

あの日から人と関わることを避けていたのは、自分を守りたかった。

あの日助けることのできなかった、あの事実から逃げる為に。

後悔ばかりが募っていったあの日々に戻りたくなくて、ずっとずっと……

だからもう、あの日の自分を捨てよう。

後悔はもう二度としたくない、だからーー



「信」



凛とした自分の声が化学室に響く。

私を見つめる信の目には、暖かい優しさが宿っていた。


「私、もう後悔したくない。だから裏切りを犯します」


「誰がなんと言おうと、俺は止めない。それがお前の世界なんだからな」



信がそっと笑い、行ってこいと首を傾げた。

強く頷き私は荷物を放り投げて、軽くなった心と共に走り出す。

無人駅……ここら辺だとあそこしか思い当たる駅がない。

あとは榊くんの音を聞くことのできる、自分の耳だけが頼りだ。

ーーお願い、待ってて榊くん。

その想いと共に前へ前へと走った。


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