その音が消える前に、君へ。
* * * *
再び静まり返った化学室で、俺は窓の外に広がる色が混じり合う空を見つめた。
走っていく音が、他の生徒達の賑やかな声にかき消されていく。
そしてこちらに近づいてくる一つの足音を俺は逃がすことなく、捉えていた。
「盗み聞きはよろしくございませんよ〜?」
「タイミングを失って入ってこれなかったのよ」
そう言って茶化し声の方へ顔を動かすと、その声の持ち主がふんと顔を横に背けた。
可愛い奴なんて思っても今は口に出せない。
ここではお互いが、ただのレイアント同士という設定で動かなければ。
「まったく……教え子は先生に似ちゃったようね」
「それで助けられた命は、今俺の前で輝いてるだろ?」
「……それに否定はできないわね」
そう言って、俺の前に椅子を持ってきて座る。
運転して肩でも凝ったのだろうか、肩を上下に動かし首を横に傾げる。
そして最後に大きく伸びをして、俺を見た。
その仕草一つ一つが愛おしくて、手放したくない。
俺は10年前、この学校で裏切りを犯した。
それでもこの力を使って、目の前の子を助けたかった。