その音が消える前に、君へ。
力の事は誰にも言えない……つまり、この音が聞こえているということも。
親すらも私のこの力の存在を、ハッキリとは分かっていない。
しかし何故かこのちゃらんぽらんの男である信は、私の力の存在を分かっている。
多分ハッキリとは分かってはいないが、私が人には聞こえる事のない音が聞こえているという事を理解しているのだ。
私の微かな動きの変化だけで、何かあったことを察してしまう。
この人にはーー嘘は一切通用しない。
「何かあったのか」
真剣な声と眼差しで私を逃がさないとばかりに迫る信に、私は小さく笑った。
「何かあっても、私は関わる気なんてないから」
そう言い残すように向きを変え、化学室を出る。
どこかで響くその音に、耳を塞ぎたくなるのを抑えながら家へと向かった。