その音が消える前に、君へ。
裏切り
走ることに特化しているわけでもない、ローファーで全力疾走することなんて考えてもいなかった。
上がる息を整えながら、ペースを落とさないように走った。
どこかでクラクションの音が鳴り響き、人の歩く足音が地面を揺らし、人工物で溢れかえった街が大きく声を上げている。
人で賑わうこの街は今日も歩きにくい。
誰かとぶつかりそうになりながらも、自分の歩く動線をしっかりと意識して進む。
この人の数を減らせればもっと前へ進めるのだろうけど、人の波を掻き分けるようにして進むしか、今は方法がない。
時折非常識者めと視線を感じるけど、他人からの私の第一印象は変人だ。
今は少しでも早くここを抜け、目的地へと目指すしかない。
スクランブル交差点を抜け、街の中心から離れるようにして走っていけば徐々に人が少なくなっていくのが分かる。
点滅信号のギリギリでまた一つ横断歩道を渡りきる。
肺に送られてくる酸素の量がガクンと一気に落ち、横隔膜が震える。
「っ……はあ……はあっ……!」
額から滲み出てくる汗をぐいっと拭って、一度だけ深く息を吸って乱れている呼吸を整えた。