その音が消える前に、君へ。

肺に送り込まれて来た酸素を、血液がしっかりと全身に送り出す。

まだ行ける、走れる。

スマホを取り出し時刻を確認すれば、16時25分。

無人駅から街の中心の駅の区間距離は、大体15分前後。

あと5分程度で辿り着けば、まだ間に合う。

自分にそう鼓舞しながら、前へ前へと進んでいく。

微かに聞こえてくる、彼の音が強く強く私の背中を押した。

会って伝えなきゃいけないんだ。

これは私にしか、できないただ一つの事。



「絶対に……!諦め、ないっ!!」



川沿いの道に出て、少し足場が悪いけどここは確かショートカット出来るような道があったはず。

少しでも早く榊くんに、会いたい。

どうかどうか……間に合え!

五月蝿い心臓の音を無視して、榊くんの音に耳を研ぎ澄ました。

いる、ちゃんと彼はそこにいる。

少し濁った、でも強く響くその音が私の耳には届いている。


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