その音が消える前に、君へ。
左右を見渡し駅の方向を確かめる。
近くのバス停まで走ると、ご丁寧に駅までの案内地図が貼られていた。
この道を真っ直ぐ行った所に駅はある。
最後の力を振り絞り、一気に走り出す。
吹く風が髪を乱しながら吹き抜けていくのを邪魔だと感じながらも、ただひたすら走った。
ようやく見えてきた木造のその駅の建物に、安心感が湧き上がる。
榊くん榊くん……!!!!
彼の名前を心の中で、何度も何度も呼びながら駅へと走った。
そして響いて聞こえてくる彼のその音に、駅の前の階段を一段飛ばしでかけ上がる。
スマホの定期を改札口に押し当て、駅のホームへと出ると味わったことの無い空気がそこには広がっていた。
落ち着いて時間の流れなど忘れそうな、その空間に私も変な錯覚を覚えた。
上がった息を無視して、辺りを見渡す。