その音が消える前に、君へ。


誰もいないこの空間に、彼の音が響き渡っていた。

一本しか敷かれていないレールの上に、木々達が落とす葉が夕日に透けては落ちていく。

虫たちの声と、どこか遠くからこだましてくる子供達の笑い声。

別の世界にでもやってきたかのような、知らないこの空気。

その空気を愛おしむように、茜色に染まりだした空を見上げながらベンチに座る……


ーー榊くんがそこにいた。



「榊くん……」



そっと名前を呼ぶと、ぴくりと肩を揺らし顔を動かして私を見た榊くんは驚きを隠せずに目を見開いた。

一歩、また一歩と近づくと榊くんはゆっくりと立ち上がった。

会いたかったよ……ずっと、ずっと。

その感情が爆発寸前で、一気に駆け寄った。



「どうして菅原さんがここに…?!」


「会いたかった、そしてっ……真実を伝えたかった」



榊くんの目の前にやって来て、榊くんの腕をきゅっと掴んだ。



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