その音が消える前に、君へ。
変わった人。
この数十秒間の出来事で、この人の印象が完成していく。
印象を植え付けてはいけないとは思うものの、この空気を変えない限りその印象は変わることはない。
まあ、印象を植え付けた所で人との関わりをあまり持たない私には無意味と言ってもいいのだが。
「あのさーー」
ようやく喋り出した榊くんが、ゆっくりと差し出していた本の表紙を見せつけるように持ち直した。
「読みたいの、これであってた?」
『マイディアントの輪廻』そう書かれた表紙に、私は頷きそうになるが肯定も否定もしなかった。
じっと本の表紙を見つめ、榊くんの顔を見た。
困惑気味なその表情に、ああ、私も変な人だという印象を植え付けられているんだな。と小さく心の中で笑った。
仕方なく手渡された本を受け取ると、どことなく安心した表情を浮かべた榊くんに、再び会釈する。