その音が消える前に、君へ。
わざわざ届けなくていいのに、なんて思いながらも本の題名を見て読みたかった本が手元にあると思うと心が踊った。
そこから榊くんは何もなかったかのように、違う本棚へと足を動かして行った。
関わりたくはなかったが、こればかりはしょうがなかったと思いながらチラリと榊くんの姿を目で追った。
本棚の一番上へと手を伸ばしながら、どこか寂しげな表情を浮かべた彼に、どうしてか切なくなる。
ありがとうとちゃんと伝えれば良かった。
後悔の気持ちが水に広がる絵の具のように滲んでいき、おかしい、と自分の中で疑問が膨れ上がる。
人付き合いが下手なのもあり、あまり人との関わりを持たないようにしている私がどうしてこんなにも榊くんに興味を示してしまうのか。
考えるよりも先に体が動いていて、本を手に取った榊くんの横へと辿り着く。
「あの……ありがとう」
そう言って、本を抱きしめながら小さくお辞儀をしいそいそとその場から立ち去った。