その音が消える前に、君へ。
潮の香り
じりじりと照りつける太陽に顔をしかめながら、額から滲み出る汗をそっと拭った。
綺麗な砂浜に綺麗な海がどこまでも続いているこの海岸で、私の学年が一斉に揃うとなかなかに暑苦しい。
熱血系な教師がメガホンマイクを構えて何か語ってはいるものの、周りもざわめく上に先生の声が大きすぎてマイクが拾えていなくただの雑音だ。
生徒に加えて強制的に参加させられたレイアント達も、ぐったりした表情を浮かべている。
無理もない、こんな暑い場所で開会式を開くのがおかしい。
エアコンの効いた涼しい部屋も準備されているというのに、どうしてこうも暑苦しい環境を選ぶのか。
ため息混じりに空を仰いでいると、うるさかった先生の声が聞こえなくなる。
どうやら長い説明が終わり締めの言葉を言い切ったのだろう。
そっと前へと視線を動かすと、榊くんの姿が視界に入る。
何事もないかのようなその涼しげな表情に小さくため息が出た。
「紗雪、ホテル行かない?」
横から陽菜乃が顔を出してくるが、ポーカーフェイスを装って小さく頷いた。
信も私の傍にやって来て、急に肩を組んでくる。
「もう少し楽しめよ。こんな機会お前には中々やってこないだろ」
「ただでさえ暑苦しいのに、肩なんて組まないでよ」
「反抗期か?」
「あーもう……」
そんな私達のやり取りを見て、陽菜乃は一人楽しそうに笑った。