その音が消える前に、君へ。
風に揺られながら響かせる音はみんなバラバラだ。
哀しくもあり、嬉しくもあるその旋律はこの花達の音だけではなく、榊くんの音にも似ている何かがあった。
胸を締め付けるようなそんな音に、視界が歪んだ。
いけない、感情を表に出してしまえば力のことがばれてしまいかねない。
きつく唇を噛みしめて、私は榊くんの横を通り過ぎてハイビスカス畑へと足を動かした。
「あ、菅原さん!」
そう言って急に引き戻すように、またしても腕を掴まれた。
驚いて体を跳ねさせると、慌てたように榊くんは手を離した。
「ごめん。自然の花畑だからあまり無闇に奥へ行こうとすると怪我する可能性あるから、気をつけて」
「怪我?」
「手入れがされてないからね。ここら辺には茎に大きな棘のある草とか生えてるから、結構危険なんだ」
よくよく見ればハイビスカスが咲く地面には、地を這うように伸びる蔦には棘がびっしりと不規則に並んでいた。
確かに今の私服のまま花畑を歩いたら、ホテルに戻る頃には切り傷まみれになっているかもしれない。
「綺麗な花には棘があるってこの事ね」
「本来のハイビスカスなら棘はないんだけどね。この棘は、花を守る兵士なのかもしれない」
そう言って近くに咲く一輪のハイビスカスを愛でるように撫でる榊くんが、小さく下唇を噛んだのを私は見逃さなかった。