その音が消える前に、君へ。


私――菅原 紗雪(カンバラ サユキ)は、生まれた時から少し人とは違う力を持っている。


誰の役にも、自分の役にも立たないような小さな力を。


元々人は己の中に特殊な力を宿すと言われていてその力は人を癒しもするし、もちろん殺めもする。


しかし全ての人にその力が現れるわけでもなく、うち秘めたもので終わるケースがほとんどだ。


その中でも特に力に特化して生まれてくる私のような存在を、現代社会は『マイディアント』と呼ぶ。


外見は一般人と一緒で、特にこれと言って何か変わりがあるわけでもない。


ただわずかな力が存在し、たまたま操れるそれだけのことで人とは違うと言われるが、この世界には数えられない位のマイディアント達が普通に生活している。


ここカルデットマテリア国立教育学園は特別な“力”を持つ者達が通う、日本屈指のマイディアントのためだけに作られた学園だ。


力が出現するのは個人的にバラバラではあるが、大体遅くても5歳までにはその力が現れる。


一般的な小学校へ入学する前に力のコントロールのために学園へと入学し、高校卒業まで通い続ける。


小中高一貫校ではあるが、生徒数は一学年辺り80人程で人数も少ないせいか、揉め事が起こることも稀でしかない。


エスカレート式な上に、国が全額負担をしているため経済的には優しい学校とも言える。


そんな学園だが、必ずしも守らなくてはいけない校則がある。


それは親以外に力の存在を知られてはならないこと、ただそれだけ。


ただそれだけだが、先生、友達、親戚、兄妹にも自分の持つ能力のことを話してはいけないという、自分の個性を絞め殺すようなものだと幼い頃にそう思った感覚は、今でも消えていない。


もし、誰かに自分の力の存在を話してしまえば【裏切り】という行為を犯した事となり即座にこの学園から退学させられる。

そして一生、裏切り者というレッテルを貼られ、知りもしないマイディアントから冷たい視線を浴びるという恐ろしいもの。




< 5 / 142 >

この作品をシェア

pagetop