その音が消える前に、君へ。
歪んでいる、そう言った相手の言葉になぜか私の心までも切り刻んでいく。
どこからか聞こえてくるあの音に、小さく首を横に振る。
私は求めないし、求めるつもりもない。
「ーーあの人と決めた以上、もう揉みくちゃにされてたまるか」
そう言った告白されたであろう人物が、ぽつりとでも芯のある声で呟いた。
聞き覚えのある声だと今更気づき、ゆっくりと顔を覗かせるとにゅっと顔が目の前に現れて小さな悲鳴が漏れた。
「ごめん。まさかそんなに驚くとは予想外だった」
小さく笑って私との距離を取るように、後向きで歩くのは榊くんだった。
「盗み聞きとは菅原さんらしくないよ?」
首を小さく傾げる榊くんは、どことなくこの状況を楽しんでいるように見えた。
あの時の態度とはまるで違う、もう一人の榊くんを見ているようで逃げ出したいそんな気持ちが芽生える。
でも、ここで逃げて何になるーーただの“クラスメイト”相手に。
「モテる男は大変だね。あんな言い方しなくてもやんわり断れなかったの?」
嫌味のようなその言葉が口から、泥を吐くように溢れてくる。
睨みつけるようにして榊くんを見るけれど、榊くんは私を見てはいなくて木々の間を泳ぐようにして流れる雲を、見つめて何も返事は返ってこなかった。
あの日以来の二人きりの時間だというのに、向こうは私に謝りもしない。
ーー何故避けられたのか、その答えを私が既に知っているかのように。