その音が消える前に、君へ。
時間というものは、すぐに過ぎ去っていって気づいたら空には幾千の星達が瞬いていた。
最後ということもあり気合を入れて、夕ご飯を食べた後皆揃って外へ出て天体観測を開始した。
流れていく時間中で、夕方の榊くんとのやり取りに靄がかかったような感覚で皆が楽しそうに作業している姿を見つめながら気持ちはどこか遠くの空にいってしまっていた。
何のためにこんな場所に来て、こんな事して、こんな気持ちにならなきゃいけないのだろうとグルグル思考が巡る。
「紗雪!さっきから、ぼーっとしすぎ!熱中症にでもなったか!」
陽菜乃の肘ぐりぐりアタックが繰り広げられ、渋々現実に戻ってくる。
班の皆を見れば楽しそうに天体観測をしていて、その中にはもちろん榊くんもいて。
夕方のあの冷酷な榊くんを皆に話したら、何かの間違いだと皆に批判されて終わるのだろうな。
着々と天体観測を進めていく中で、私だけが取り残されているこの状況に小さく笑った。
そして人の関わりの中で動かされている自分の存在に気づいて、ガチャリと心の鎖が動いた。
「もう少しで終わっちゃうんだから、夏の思い出一緒に作ろう?」
「陽菜乃」
「なに?」
「……ううん。なんでもない」
他人に興味を示さない私が、こうやって誰かと共に過ごして何か変わってきてる?
なんておかしな質問をしたところで陽菜乃を困らせるだけだ。
口をそっと閉じた私ににやりと笑みを浮かべた陽菜乃は、頬を突いてくる。
「もう、榊にばかり気を取られてないで私にも気を向けてよね」
耳元で楽しそうに囁く陽菜乃に、仕返しだと言わんばかりに陽菜乃の脇腹を突いた。