その音が消える前に、君へ。
行動開始と思いリビングを出ようとすると、お母さんに呼び止められた。
「紗雪は……今日は予定ないわよね」
「あ、陽菜乃に祭り誘われたから行こうかなって」
「ええ!?行くの!?」
お母さんの思いも寄らない発言に、まずい事でも言ってしまったかと口を抑えると瞳を輝かせたお母さんが駆け寄ってきた。
「あの紗雪が!お祭りに行くの!」
「え、っとダメだった?」
「そんな事あるわけないでしょう!待ってて!」
そう言って私を残してリビングを飛び出たお母さんは、どたばたしたかと思えば何かを持って戻ってきた。
見せつけるように広げたそのものに、私は全力で首を横に振った。
「お母さん、出してもらってあれだけど、いいよ、いいから」
「何を言うの!この日をどれほど待ち望んでいたことか!着付けも出来ちゃうんだから、さあ!」
気合い十分のお母さんが持ってきたのは、真新しい紺色の紫陽花の描かれた浴衣だった。
ツッコミ所満載だけど、お母さんに何を言ったところで聞く耳は持ってくれなさそうだ。