その音が消える前に、君へ。
3人兄妹で唯一の娘である私だけど、こんな性格なものだからお洒落や流行には疎い。
そんな私にいつか着せたいと思って買っていたのであろうその浴衣に、今袖を通さなかったらこの浴衣はきっと近所の子にあげることになる、そう思ったらお母さんが可哀想に思えてきた。
「お願い!一度でいいから!娘の着付けをやりたいの」
「……どれぐらい時間かかるの?」
「紗雪!いいの?!」
期待に満ちたお母さんに向かって小さく頷くと、お母さんは飛びついて喜んだ。
その笑顔に、心が満たされていくのを感じ自然と笑顔になった。
お母さんに連れられて二階で着替え始めること20分、お母さんの手際の良さに驚きつつどんどん普段の私ではなくなっていった。
着付けが終わり髪もアップして普段なら絶対やらないようなお団子にして、メイクもして……気づいたら鏡に映る自分が別人になっていた。
「本当、紗雪なんか変わったわよね」
「そう、かな……」
「何があったのかは分かんないけど、自分の気持ちに嘘はついちゃダメよ」
最後の仕上げが終わると同時にそう言われながら、背中をポンと押された。
嬉しそうに私を見つめるお母さんを置いて、家を後にした。