その音が消える前に、君へ。
じわりと熱を持った風が浴衣の中を通り抜けていくのを感じながら慣れない下駄で歩き慣れた商店街を歩いていると祭りとあってか人通りが多く、やけにがやついている。
スマホを手に取り時間を確認すると、もう約束の時間を5分も遅れている状態だった。
自転車を使えばすぐ着くけれど、この格好もあってそんなお転婆なことも出来ず靴ずれが起きないよう歩いてしまったせいだろう。
速めの行動をしたと言うのに計算違いだったと思いながら人の少ない裏道を使って、いつもの待ち合わせの場所である時計台へと急ぐ。
待ち合わせ場所として多くの地元民が使っていたらしく、ここでも予想外でなかなか陽菜乃を見つける事ができない。
『遅くなってごめん。着いたけど、どこら辺にいる?』
そう連絡をすると陽菜乃からすぐさま返事が返ってきた。
『時計台近くの自動販売機!』
なるほど、あそこなら人があまりいない。
そこで待っていてもらうように返事を返し、自動販売機のある方へと向きを変えて歩き出す。
こうも人が多いと待ち合わせするのも大変なんだなと、心の中で苦笑しつつ人の波に飲まれないように脇道を選ぶ。
小さな公園横の小道を通って目的の自動販売機が見えたと思うと、陽菜乃の笑い声が聞こえてきた。