その音が消える前に、君へ。


予想もしていなかったこの出来事にどうやって対処したらいいのかと、頭を使うけれど全然働いてくれずに体温ばかり上がっていく。

何か言わなきゃとは思うけど、そんなコミュニケーション能力があるわけもない私にはこの空気を変えることは出来ない。

そんな私の感情を読み取ったかのように、榊くんが口を開いた。


「どこまで行くの?」

「の、飲み物買いにいこうかなって」

「ここの道使って屋台まで行くと、人に揉みくちゃにされて終わりだよ」


そう言って自然な流れのままそっと私の手を掴んだ。

これは……もしかして。


「道案内、するね」


こくんと小さく頷いても榊くんからは見えないけど、声は出てくれなかった。

繋がれた右手を見つめて仕舞う度、顔が熱くなる。

こんな、こんなの……こんな私には対処できるわけがない。

右手から意識を逸らす様にして、榊くんの後を眺めた。

近くでこの音を聞くのが久しぶりで、妙に安心する。

澄んでいるその音は、規則正しくてでもどこかいつもより大きく聞こえる。

花火の音にかき消されることなく、この音は響いている。

ちゃんと私の耳に、心に届いている。




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