その音が消える前に、君へ。
人の多い道から横道に逸れて歩いて行くと、人気がほとんどない細い道へと出た。
賑やかなあの道とは違い涼しい風が流れ込んでくるのに、そっと深呼吸をした。
打ち上がる花火の光が落とす、私達の二つの影が小さく揺れる。
「あ、屋台着く前に自販機あったよ」
そう言われて前を見れば、ひっそりと佇む自動販売機がそこにあった。
榊くんが私の手を離し、自動販売機の前で立ち止まる。
やけに風を感じ熱を失っていく右手に微かに残る榊くんの温もりを、大事にしながら財布からお金を取り出しジュースを二本買った。
好みが分からないからとりあえず、同じものを二本買えば文句は言われない……だろうか。
一本を先に榊くんに差し出すと、榊くんは慌てて手を横に振った。
「気使わなくていいよ、大丈夫」
「買ったもの返品できないし、それに……色々」
「色々?」
「ハイビスカスとか、蛍とか……」
体験したことのない刺激を与えて、私の心を変えてくれたすべてに対してのお礼がしたい。
でも、私にはそんな臨機応変に何か対応出来るようなスペックは残念ながら持っていない。
少しでも感じてもらいたい、私が榊くんにたくさん動かされている事を。
「お礼は、本当は俺がしたいんだけどね」
「え?そんな私何も――」
「ありがとう。遠慮なく頂くよ」
私の言葉を遮るようにして差し出していたペットボトルを、榊くんが手に取った。