その音が消える前に、君へ。
憂いの秋
夏休みは気づいたら終わっていて、迫る中間試験に追われて時間は流れていく。
今年の文化祭は、臨海学校で予算があまりないとのことで最高学年の三年生のみが出店するだけとなり不参加となった。
そのせいかいつもよりもゆっくりと、時間が流れていく感じがした。
それでも陽菜乃達は、1日1日が早いと文句を言いながら中間試験の勉強を必死にやり込んでいた。
一段落したと思った頃には残暑というものも今年は短く、過ごしやすい秋へと突入していく。
ちらほらとYシャツの上に、セーターを羽織る人が多くなってきた。
季節が変わるその視覚的情報に、私の心に現れ始める焦りを感じていた。
夏休みに榊くんにした約束を、いつ果たそうかと考えれば考える程意識が高まっていく。
あの濁った音もここ最近ずっと聞いていない。
澄んだ音が安心させてくれて、気づけば目で追っている。
時折目が合うと、向こうは優しく微笑み小指を立ててくる。
約束のはいつ?と言っているのがその仕草だけで分かる。
熱くなる顔を冷ますように、陽菜乃の元へと駆け寄ってからかわれるのは定番の行事となりつつあった。