その音が消える前に、君へ。


お昼ご飯を売店で買って今日は屋上で食べることとなったけど、どこか空気が重たいというかなんと言うかでいつも食べているクリームパンがどこか苦く感じる。


空というキャンパスで線を描く飛行機は、今日も同じように飛んでいて。


音楽室から聞こえてくる吹奏楽部の昼練の音が聞こえてきて。


グラウンドや体育館で遊んでいる生徒達の、楽しそうな声が響いて聞こえてきて。


何処も彼処もいつもの日々の音が、時間が流れているのに、何かが違う。


心が……騒いでいる、このままではいけない、と。



「陽菜乃」



空を仰ぎながら私は親友の名前を呼んだ。


沈黙の空気を破った私の手にそっと触れて、なに?と返事をする。



「私、行ってくる」


「榊の家?」


「風邪だったら今までの授業のノート貸して、そうじゃなかったら……理由をちゃんと聞いてくる」


「そっか。私はちゃんとここで待ってるから、行っておいで」



そう言って、きゅっと私の手を握ってくる陽菜乃に温もりを返して一つ頷いた。



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